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東京家庭裁判所 昭和46年(家)4979号 審判 1972年11月18日

申立人 松下康夫(仮名)

相手方 松下ふみえ(仮名) 外一名

主文

一  被相続人松下伊左男の遺産分割として、

(一)  別紙目録記載の宅地二筆および建物一筆は申立人の持分三分の二、相手方松下ふみえの持分三分の一の共有取得とする。

(二)  申立人は相手方坂本俊子に対し金四二一万五、六六六円を支払え。

(三)  相手方松下ふみえは申立人、相手方坂本俊子に対し各金四七万〇、六六六円を支払え。

(四)  右宅地建物の賃貸料の取立は全額相手方松下ふみえにおいてなし、その三分の二額を申立人に交付するものとする。

(五)  右建物のうち相手方松下ふみえが現在居住する部分(一階北東端の六畳二間三畳二間台所便所風呂付設のもの)は今後同人が死亡するまで無償で使用することができる。

二  審判費用のうち別紙目録記載の土地建物についての鑑定費用金六万円は申立人および相手方両名の平等の割合による負担とし、右建物に対する相手方松下ふみえの居住権の鑑定費用金四万円は同人の負担とする。

理由

(申立人の申立および主張)

申立人は被相続人松下伊佐男の別紙目録記載の遺産について適正な分割をするよう求め、その申立の実情として次のとおり述べた。

一  被相続人松下伊佐男(以下被相続人と略称する)は昭和四五年五月一四日死亡し、その妻である相手方松下ふみえ、その子である申立人および相手方坂本俊子が法定相続分により共同相続した。

二  相手方松下ふみえは被相続人の後妻(昭和四二年一月一二日婚姻)であり、被相続人との間に子はなく、申立人は昭和一二年四月一〇日別紙目録記載の建物において出生し、昭和三四年頃まで同所に居住していたものである。

三  被相続人の遺産は別紙目録記載のとおりである。

四  被相続人は相手方松下ふみえと結婚する前に別紙目録記載の建物を建築し、その一部に居住して、他の部分を一一室のアパートにして賃貸していたものであるが、相手方松下ふみえは被相続人死亡後も右建物の一部に居住して右アパート賃貸料全額(一ヶ月合計約金一〇万円というだけで正確な額は分らない)を独占して取得しているものである。これは不当であり、また右居住部分についても同相手方は他の賃貸部分と同様に賃料相当額を遺産に支出すべきである。

五  相手方松下ふみえは、右居住部分について居住の利益ないし権利があり、これは遺産の評価にあたつて考慮さるべき旨主張するが、かかる主張は全く法律上の根拠を欠くものといわなければならない。

すなわち、被相続人と同居していた妻は、被相続人が同人所有の建物に居住していた関係上、反射的効果によつて同一建物に適法に居住しているというだけであつて、この関係は被相続人の妻が被相続人に対してその居住上の利益を法律上の権利として主張できるものではなく、したがつて、またこの関係は被相続人の死亡後妻が自己以外の相続人に対して法律上の権利として主張できる筋合のものでない。被相続人の生前、同人所有の建物に対して法律上の権利のなかつた妻が、被相続人の死亡後、相続以外の原因によつて当該建物に対し当然に法律上の使用権を取得する理由はない。相手方松下ふみえの上記主張は、未亡人の住生活を保護することを考えなければならないという情状論に惑わされて、ことの本質を見誤つていると評さざるを得ない。

未亡人の住生活保護は、その必要があるときは、別の法理にこれを求めなければならない。

百歩を譲り、仮りに被相続人所有の建物に妻が居住する関係が、使用貸借権類似の法律上の権利だとすれば、それは妻が生前夫たる被相続人より受けた特別受益というべきであるから、この部分の評価額については相手方松下ふみえの相続分から控除さるべきである。

六  申立人は現在妻の実家に身を寄せているが、本件建物がかなり面積も広くかつアパートとなつている状態でもあるので、その一部に居住したいと考え、そのような提案もしたが、相手方松下ふみえに拒否されているものである。

(相手方松下ふみえの主張)

一  被相続人松下伊左男の共同相続人が妻である相手方松下ふみえと子である申立人、相手方坂本俊子であることはそのとおりである。

二  ところで、申立人は被相続人の遺産は別紙目録記載のとおりであるというのであるが、そこにかかげる不動産物件は相手方松下ふみえの被相続人に対する献身的な財産的精神的な貢献があつたればこそ遺産として保持できたものであるから、この事情を遺産分割にあたつて十分考慮さるべきである。

すなわち、相手方松下ふみえは昭和三八年一一月頃知人の紹介により被相続人と結婚することになつたのであるが、その時の紹介者の話によれば「七〇歳を過ぎた老人の一人暮しであること。子供は二人いるが親と全然交際せず一人淋しく余生を送つているので、老後の面倒を見てくれた人に財産をやりたい(老後の生活は保障するの意味)と考えていること」ということであつた。ところが嫁いでみると有るものは借財のみですべてが差押され、あまりの驚きに直ちに実家に帰ろうとさえ考えた。ちなみに当時相手方松下ふみえは洋裁業で充分に生活する能力があつた。しかし、縁あつて同居までした老齢のしかも病弱な被相続人を置いて出るわけにもいかず、被相続人のために生きようと決意し、自分の蓄財約六〇万円をすべて投げ出して本件遺産となつているアパート建物の差押・売却処分を解放してその維持をはかり、さらに昭和四一年から昭和四二年にかけてプレス関係(けとばし)の内職をして一ヶ月金一万五、〇〇〇円の二年分計金約三六万円、昭和四三年から昭和四四年にかけて○○製作所勤務の内職をして一ヶ月金一万五、〇〇〇円から金一万八、〇〇〇円、平均金一万五、〇〇〇円の一年分計金約一八万円の収入をそれぞれ得て被相続人を助けその財産保持に貢献したのであり、その努力は筆舌につくせるものではないのである。

また、昭和四五年五月一四日の相続開始後のアパート賃貸による家賃収入は昭和四六年六月までは一ヶ月金一〇万二、〇〇〇円、昭和四六年七ないし九月は一ヶ月金一〇万三、〇〇〇円、昭和四六年一〇、一一月は一ヶ月金一〇万四、〇〇〇円、昭和四六年一二月、昭和四七年一ないし三月は一ヶ月金一〇万四、五〇〇円、昭和四七年四月以降は一ヶ月金一〇万六、七〇〇円であるが、これから所得税、固定資産税等の税金、申立人および相手方坂本俊子の分も含めた本件相続税、建物火災保険、法要費用、建物の管理費修繕費等の必要諸経費を支出すると残額は少くなり、これも相手方松下ふみえの生活費として費消せざるを得ない状態である。

三  さらに、相手方松下ふみえには別紙目録記載の家屋に居住する権利があり、またそれは相続財産の評価において当然考慮されなければならない。

すなわち、相手方松下ふみえは被相続人と右家屋の一室を自家用に改築して居住してきたものであるが、この場合残された配偶者に従前どおり居住を継続すべき正当性が認められる限りその居住権を保障さるべきであるとするのが通説判例である。学説としても権利濫用理論、法定賃借権理論、居住の必要性から居住権を認める理論、あるいは遺産分割の本質から居住権を認める理論と諸説があるけれども、いずれも結論として残された配偶者に居住権を認めており、また大阪高裁昭和四六年(ラ)一七五号遺産分割審判に対する抗告事件決定は「遺産たる家屋に従前より被相続人と共に居住していた相続人中のある者が、その居住を継続すべき正当性の認められる限り、たとえ遺産分割によつて右家屋の所有権が他の共同相続人に帰属した場合であつても、右家屋の居住使用を継続できるものであり、その居住利益は保護さるべきで、他の共同相続人においてこれを侵すことは許されないと解すべきである。」としているのである。

そして、相手方松下ふみえにおいて遺産たる家屋につき右居住権が認められる限り、それを評価した価額は右家屋の遺産評価から控除さるべきである。東京家裁昭和三九年(家)八二二三号遺産分割事件審判もそのことを明言している。

四  そこで、本件遺産分割としては、遺産を申立人および相手方両名の共有とし、アパートの賃料収入は現状のまま相手方松下ふみえが死亡するまで同人の生活費に費消することを認める方法を第一案とし、右第一案が認められない場合は、本件遺産を全部相手方松下ふみえにおいて単独取得し、その代り同人は申立人、相手方坂本俊子に対し前記三にもとづく相手方松下ふみえの居住権価額を遺産評価額より控除した上で各人の相続分を算定した価額を支払う方法を第二案として提案したい。

(相手方坂本俊子の主張)

一  被相続人松下伊左男の共同相続人が妻である相手方松下ふみえと子である申立人、相手方坂本俊子であることはそのとおりである。

二  被相続人の遺産が別紙目録記載のとおりであることも認める。

三  相手方松下ふみえは被相続人に対する金銭的精神的貢献を強調してこれを本件遺産分割内においてとくに考慮すべき旨を主張するけれども、それなら被相続人のために永年にわたり奴隷のようになつて働き本件遺産をつくり上げることに貢献した亡実母うめと相手方坂本俊子の立場こそ考慮さるべきである。実母うめは夫被相続人のために苦労し、ようやく財産もできてこれからというときに昭和三二年一一月二六日病死してしまつたのであるし、相手方坂本俊子は小学生の頃から松下家のために犠牲となつて不当な加重労働を強制され、そのため身体をこわし、肺結核にもなる状態であつたが、よく療養することも許されず、昭和三二年現在の夫坂本竹夫と結婚するまで身を紛にして働き、右結婚に際しても道具一つ買つてもらえない始末であつた。本件遺産はこうしてつくられたものであり、相手方松下ふみえは被相続人と結婚してわずか数年であり、本件遺産もそれ以前に現状どおり完成していたものである。

四  申立人は被相続人のためになにも尽すことがなかつたものである。

五  結局各人の貢献度をいい出すと切がないので、本件遺産分割は平等に三等分する分割方法が一番のぞましく正当なものと信ずる。

(当裁判所の判断)

一  相続人の範囲

筆頭者被相続人、同申立人、同坂本竹夫の各戸籍謄本(甲第一、第二、第三号証)および申立人、相手方両名の各審問結果により、被相続人は昭和四五年五月一四日死亡し、その相続人は妻である相手方松下ふみえ(昭和四二年一月一二日婚姻)と先妻亡うめ(昭和三二年一一月二六日死亡)との間の子である相手方坂本俊子(長女昭和七年一一月一〇日生)、申立人(四男昭和一二年四月一〇日生)の三名であることが認められる。

二  遺産の範囲およびその評価

申立人は別紙目録記載の宅地二筆建物一筆が遺産である旨主張し、相手方松下ふみえにおいて右建物の一部につき同人の居住権がある旨主張するほかは、相手方両名もその点を争わないところ、右宅地建物についての不動産登記簿謄本(甲第四、第五、第六号証)および申立人、相手方両名の各審問結果によつても、右宅地建物がいずれも被相続人の所有であることが認められるほか、右建物は現況アパートであり、貸室一一室と被相続人が生前相手方松下ふみえとともに居住し現在相手方松下ふみえひとりが居住している居住部分に分かれることが認められる。

したがつて、申立人が別紙目録の四にかかげる右アパート建物の賃貸料は遺産から生ずる果実として遺産分割の対象にすべきところ、相手方松下ふみえの陳述およびその審問結果によると、右賃貸料は昭和四五年五月一四日相続開始後昭和四六年六月までは一ヶ月合計金一〇万二、〇〇〇円、同年七月ないし九月は一ヶ月合計金一〇万三、〇〇〇円、同年一〇月一一月は一ヶ月合計金一〇万四、〇〇〇円、同年一二月、昭和四七年一月ないし三月は一ヶ月合計金一〇万四、五〇〇円、同年四月以降は一ヶ月合計金一〇万六、七〇〇円であること、およびこれらはすべて相手方松下ふみえにおいて取立てていることがそれぞれ認められる。

ところで、相手方松下ふみえは右居住部分について同人に固有の居住権があり、それは本件遺産分割において保障さるべき旨主張するので判断するに、増改築設計図および請求書(甲第一八号証の一、二)、鑑定人杉本治の鑑定書ならびに相手方松下ふみえの審問結果によると、被相続人は妻相手方松下ふみえとの居住場所を右アパート一階の一部に設け、その居住部分は昭和四二年増室工事をして六畳二間三畳二間それに風呂場、台所、便所が付設されるものであること、被相続人死亡後も相手方松下ふみえが同所に居住してその生活の本拠としていることが認められる。

しかして、申立人は、相手方松下ふみえの右居住について同人に固有の居住の権利のあることを否定し、むしろ同人は遺産たる建物の一部に居住しているのであるから、右居住部分について賃貸料相当額を遺産に対して支出すべきである旨主張するのである。

確に、被相続人とともにその所有家屋で共同生活を送つてきた配偶者が被相続人の死亡という事実によつてその居住利益を直ちに失うかどうかは問題である。しかして、相続人たる配偶者は元来その相続分に応じて相続財産を使用管理する権限があり(民法二四九条)、しかも被相続人生前からの居住利益は、当該配偶者においてその居住を継続すべき正当性の認められる限り、他の共同相続人においてこれを尊重する必要があるものと解すべきである(大阪高裁昭和四六年九月二日決定家裁月報二四巻一〇号九〇頁、東京家裁昭和四〇年四月二〇日審判家裁月報一七巻九号九〇頁参照)から、その遺産分割にあたつては右配偶者の居住利益を積極的に評価して、遺産評価から控除するのが相当であると解する。

相手方松下ふみえの陳述およびその審問結果によると、相手方松下ふみえは年齢五〇歳になつてから被相続人と結婚し、それまでの貯えも被相続人との生活に費消し、いまは年齢的にも自活能力は乏しく、本件建物に居住を継続する必要性のきわめて高い事情が認められ、これに比し、申立人、相手方坂本俊子はそれぞれ自らないしは親族の援助により居住場所を確保し自活能力を有することが同人等の審問結果によつて認められるのであつて、かかる本件の場合、相手方松下ふみえについて別紙目録記載の建物に対し現在の居住部分につき居住の権利を認めそれを遺産の評価にあたり考慮するのが相当である。

そこで、本件遺産の評価額をみるに、鑑定人杉本治の鑑定書によると、別紙目録記載の土地建物は賃貸を目的とする共同住宅および敷地であつて、現にその用途に供されているものであるから、その遺産価額の評価についてはいわゆる収益価額をもつて算定するのが相当であること、それによると右遺産たる土地建物全部の収益価額は金一五、四二万五、〇〇〇円と評価されること、が認められる。しかして、右金額は相手方松下ふみえの居住部分も賃貸するものとしてその分の賃料月金三万五、〇〇〇円を計上して算定したものであるところ、前記のとおり相手方松下ふみえについては右居住部分の居住の利益を確保してやるのが相当であるから、右居住権の評価額を右遺産評価額より控除するのが相当である。前記鑑定書によると、右居住権を無償の使用貸借権とみてその存続期間を本件建物の経済耐用命数一六年の期間とした場合のその評価額は相手方松下ふみえの居住部分について収益がなく(無賃料)維持修理費だけは負担する条件の別紙目録記載の土地建物の収益価額を算定し、この価額を前記評価額金一五、四二万五、〇〇〇円より控除することによつて求められること、そして前者の収益価額は金一二、六四万七、〇〇〇円となること、したがつてこれを前記評価額金一五、四二万五、〇〇〇円より控除した残額金二、七七万八、〇〇〇円が相手方松下ふみえの居住権の価額となること、がそれぞれ認められる。したがつてまた別紙目録記載の土地建物の遺産評価額としては右相手方松下ふみえの居住権価額を控除した金一二、六四万七、〇〇〇円をもつて算定するのが相当である。

また、右建物の昭和四五年五月相続開始月より昭和四七年一〇月までの賃貸料は合計金三、一〇万九、九〇〇円になるところ、相手方松下ふみえにおいて本件相続開始後要した葬儀その他の祭祀費用、本件土地建物の公租公課、管理費用等の諸経費は同人において保管する右賃貸料中より支出するのが相当である。しかして、相手方松下ふみえが昭和四六年八月までに支出した右諸経費は葬儀その他の祭祀費用として金六六万八、五九〇円、本件土地建物に関する公租公課として金一四万一、七七〇円、管理費用として建物火災保険料等も含めて金二三万二、八九一円であることが相手方松下ふみえの陳述および同人提出の資料乙第四〇の五、第四一ないし第四五、第四六の一、二、第四七の一、第四八の一、二、第四九の一ないし四、第五〇の一、二、第五一、第五三の一ないし三、第五四の一ないし三、第五五、第五八の一ないし三、第五九の一ないし四の各号証によつて認められ、またこの認定事実より昭和四六年九月以降昭和四七年一〇月までの間に公租公課、管理費用においてほぼ同額の支出を要しているものと推認される。したがつて、昭和四五年六月より昭和四七年一〇月までに相手方松下ふみえにおいて支出を要した右諸経費として金一、四〇万円を計上することができる。それに相手方松下ふみえの陳述および同人提出の資料乙第六〇の一、二、第六一の一、二の各号証によつて認められる同人の支払つた申立人および相手方両名の本件相続税合計金二九万七、九〇〇円も右賃貸料から支出されて相当であるから、これも控除することとし、結局前記取立賃貸料金三、一〇万九、九〇〇円より右諸経費および本件相続税額を控除すると残額は金一、四一万二、〇〇〇円となる。

三  各相続人の相続分

本件の場合、とくに相続分の指定等の事情が認められないので、申立人、相手方両名の各相続分は法定相続分にもとづきいずれも同等の三分の一となる。したがつて、各人の具体的な相続分額は前記遺産評価額金一二、六四万七、〇〇〇円の三分の一すなわち金四、二一万五、六六六円(円以下切捨て)となる。

なお、遺産物件より生ずる果実の分配については、遺産の使用管理に属する事柄として、遺産そのものの分割とは区別して別途に処理するのを相当とするから、前記必要諸経費および本件相続税額を控除した建物賃貸料残額金一、四一万二、〇〇〇円については、これを三等分し、その三等分額金四七万〇、六六六円(円以下切捨て)を保管者である相手方松下ふみえより申立人、相手方坂本俊子にそれぞれ支払うよう遺産分割的で清算するのが相当である。

四  遺産の分割

相手方松下ふみえが本件建物の一部に居住権を有すること前記認定のとおりであり、被相続人もその晩年をよく面倒みてくれ精神的物質的に非常に貢献した相手方松下ふみえが本件建物に居住する形で本件遺産たる土地建物を相続承継することを希望していた事情が証人井上あやの証言および相手方松下ふみえの陳述ならびにその審問結果によつて認められるのであり、他方申立人、相手方坂本俊子はそれぞれ結婚して自活能力を有しその住居も一応確保されている事情が認められる本件においては、相手方松下ふみえが本件土地建物に居住する形で遺産分割する方法がのぞましい。しかし、同人には全遺産を単独取得して申立人、相手方坂本俊子にそれぞれ前記相続分額を金銭で支払うだけの資力は全くないので、現物分割を可能なかぎり採用して債務負担による調整の範囲をできるだけ少くするという方法を採らざるを得ない。

そこで、別紙目録記載の宅地二筆および建物一筆を申立人の持分三分の二、相手方松下ふみえの持分三分の一の共有取得とし、代償として申立人は相手方坂本俊子に対し金四、二一万五、六六六円を支払い、また相手方松下ふみえは過去の遺産賃貸料の配分として申立人、相手方坂本俊子に対し各金四七万〇、六六六円を支払うようにすべきである。そして、今後の右土地建物の利用管理については申立人と相手方松下ふみえが右持分に応じてなすべきであるが、相手方松下ふみえが右建物の賃貸料をその生活のための唯一の収入源としている事情から紛争を未然に予防するため右賃貸料全額の取立は相手方松下ふみえにおいてなし、その中三分の二額を申立人に交付すべきものとし、また右建物のうち相手方松下ふみえが現在居住する部分はそのまま今後も同人が死亡するまで同人において無償で使用できるものとする。

なお、審判費用のうち鑑定費用については家事審判法七条非訟事件手続法二七条二八条を適用して、別紙目録記載の土地建物についての鑑定費用金六万円は申立人および相手方両名の平等の割合による負担とし、右建物に対する相手方松下ふみえの居住権の鑑定費用金四万円は同人の負担とする。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 渡瀬勲)

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